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通勤3時間で人生観が変わるビジネス書、どう選ぶか

朝、駅のホームで電車を待ちながら、スマホをぼんやり眺めていたあの時間。あなたが30代後半のときも、40代になったいまも、そんなに変わっていないのではないでしょうか。私自身、商社時代の若手だった20代後半、往復3時間の通勤の半分はメールチェックと業界ニュースの斜め読みで終わっていました。残り半分は、座れたら寝ていた。それが当たり前でした。

申し遅れました。長谷川拓海と申します。元・大手商社の海外営業を15年務め、38歳で独立。いまは中小企業の経営コンサルタント業の傍ら、若手経営者向けの私塾的な勉強会「拓塾」を主宰しております。早稲田の文学部で東洋哲学を専攻していた縁から、月に1度、幕末や戦国の古典を題材にしたディスカッションを行っています。月に20冊近いビジネス書に目を通し、書評も寄稿してきました。

通勤に往復3時間を費やす方は、首都圏のビジネスパーソンには珍しくありません。年間の労働日を約240日とすれば、通勤時間だけで720時間。これは大学の単位にして約60コマぶん、フルタイムの大学生が1年間に履修する授業時間の半分に相当します。

その720時間の使い方が、5年後・10年後の自分を静かに、しかし確実に分けていく。私は20代後半でその事実に気づき、以来、通勤の電車内を「動く図書館」と呼んできました。

この記事では、通勤の3時間で読み切れて、なおかつ人生観を揺さぶってくるようなビジネス書を選ぶための私なりの基準と、読み終えたあとに本当に人生観を変えるための習慣についてお話しします。読み終えたとき、明日からの通勤電車での過ごし方が、少しだけ変わっているはずです。

通勤の3時間という、ビジネスパーソンに残された自由時間

通勤時間は、上司の目もクライアントの呼び出しもない、現代のビジネスパーソンに残された数少ない自由時間です。私はこの時間を、若い頃の自分を含む多くの人が過小評価してきたと感じています。

1日3時間×年間240日=720時間という資産

往復3時間の通勤を年間240日続けると、720時間。1日8時間労働で換算すれば、勤務日にして90日ぶん。ビジネス書を1冊読み切るのに3時間かかるとすれば、年間240冊。週末や夜の隙間時間まで含めれば、もう少し増えます。

これは、専門知識を体系的に身につけるには十分すぎる時間です。例えばMBAの主要科目をひと通り独学で押さえるには、書籍にして30冊から40冊が一つの目安。理論上、通勤読書だけで1年に6回、別領域のMBAを履修できる計算になります。

もちろん、現実はそんなに整然とは進みません。集中できない日もあれば、寝てしまう日もある。それでも、半分の効率で見積もって年間120冊。これだけ読めば、ビジネスパーソンとしての引き出しは確実に増えます。

なぜ通勤時間は集中できるのか

通勤読書には、自宅やオフィスの読書にはない独特の集中力が宿ります。これは多くの読書家が経験的に語ってきたことで、私も同感です。

理由はおそらく3つあります。

  • 移動中は他の選択肢が物理的に制限されているため、本にしか向き合えない
  • 終点までという「時間の区切り」が自然に生まれ、締切効果が働く
  • 周囲の雑音が一定のホワイトノイズとなり、かえって集中を支える

つまり、通勤電車という環境そのものが、読書のための「装置」として機能している。だからこそ、家でなかなか進まなかった本が、通勤中だと不思議と読み切れるという現象が起きます。

スマホよりも本が向いている理由

「動画やオーディオブックでもいいのでは」と聞かれることがあります。もちろん、それらが悪いわけではありません。私自身、英語のニュースは音声で聴いています。

ただ、人生観を揺さぶる体験という意味では、紙か電子かを問わず「本」が圧倒的に強い。なぜなら、本は読み手のペースで読み、立ち止まり、戻ることができるからです。動画やポッドキャストは時間が一定の方向にしか流れません。気になった一節に立ち止まって考える、という能動的な読書体験は、本ならではのものです。

文化庁の国語に関する世論調査でも、読書習慣の有無が知識量や思考の柔軟性と関わっていることが繰り返し示されてきました。短い動画で得た情報は流れ去る一方、本でじっくり咀嚼した内容は、自分の思考の骨格になります。

「人生観が変わる」という体験を、もう少し分解してみる

「人生観が変わる本」と聞くと、なんだか大袈裟に聞こえるかもしれません。実際、書店の帯文句にも乱発されている言葉です。けれど、本当に人生観を変えてくる本というのは、あるパターンを持っています。

知識習得と人生観の変化は別物である

ビジネス書には2種類あります。「知らなかったことを教えてくれる本」と「知っていたつもりのことを、もう一度根本から問い直させる本」。

前者は便利です。最新のマーケティング理論、新しいフレームワーク、海外事例。読めばすぐに仕事に活きるし、明日の会議で使えます。

しかし、これらの本で人生観が変わることは、ほとんどありません。情報を仕入れただけだからです。

人生観が変わるのは、後者の本に出会ったとき。「自分はなぜこの仕事をしているのか」「自分が無意識に避けてきた問いは何か」といった、すでに自分の中にあったはずの問題に光を当てられたときです。

私が人生観を変えた本との出会い方

私自身、これまでに「人生観を変えた」と言える本は、おそらく10冊もありません。20年以上、月20冊ペースで読んできて、それでも10冊。思い返してみると、それらの本との出会い方には共通点がありました。

仕事で行き詰まっていたとき、自分の限界を感じていたとき、あるいは何かを決断する直前。そんな心の状態のときに偶然手に取った本が、ことごとく後の人生に影響を与えています。商社時代に駐在先の上海の書店で買った『論語』、独立を決める半年前に読んだ司馬遼太郎の『峠』。これらは内容そのものよりも、「読んだタイミング」が決定的でした。

つまり、人生観を変える本は、本のせいではなく、読み手の側のレディネス、準備の状態によって決まるところが大きい。

人生観を変える本に共通する3つの特徴

それでも、人生観を変えやすい本にはいくつかの共通項があります。私の経験から3つに絞ると、こうなります。

  • 著者自身が一度、深く挫折している、もしくは葛藤を経験している
  • 抽象的な理屈ではなく、生身の人間のエピソードが豊富である
  • 読者に答えを与えるのではなく、読者自身に問いを立てさせる構造になっている

逆に言えば、コンサルが書いたフレームワーク満載の本や、スマートに整理されすぎた成功本では、人生観はあまり揺さぶられない。揺さぶられるのは、書き手の汗と痛みが透けて見える本です。

通勤3時間で読み切るための、本選びの5つの基準

ここからは実用的な話に移ります。書店で本を手に取ったとき、それが通勤読書に向いているかを見極める5つのチェックポイントをご紹介します。

基準1:3時間で読み切れる分量と構成か

ビジネス書の標準的な厚みは200〜250ページ前後。これを3時間で読み切るには、1ページあたり1分弱のペースが必要です。

平均的な読書スピードの方であれば、200ページ以下で、各章が短く区切られている本が向いています。逆に、500ページを超える大著や、章ごとに密度が高すぎて立ち止まらざるを得ない本は、通勤読書には向きません。そういう本は週末用と割り切るのが賢明です。

3時間で読み切れる本を選ぶ理由は、読み切ったという達成感が次の本へのモチベーションになるからです。途中で停滞すると、本はそのままカバンの底で重しになります。

基準2:通勤環境で読みやすい体裁か

紙の本であれば、新書または四六判の薄手が扱いやすい。電車内で片手で持てて、満員電車でも開きやすいサイズ感です。ハードカバーの分厚い本は、通勤には不向きです。

電子書籍の場合、ページ送りが軽快で、文字サイズが調整できるかどうかが鍵になります。私はKindleの最も小型のモデルを愛用していますが、片手で操作できる端末を選ぶと読書量が変わります。

意外と見落とされるのが、図表の多さです。図表は紙でこそ威力を発揮しますが、電子書籍だと小さくて読めない場合があります。図表を多用する本は紙、文章中心の本は電子、と使い分けるとストレスが減ります。

基準3:抽象論で終わらない具体例があるか

「ビジネスパーソンは志を持つべきだ」と書かれた本と、「あの経営者は40代でこんな決断をして、それがその後の会社をこう変えた」と具体的に書かれた本では、後者のほうが圧倒的に記憶に残ります。

立ち読みのとき、目次をざっと眺めて、章のなかに固有名詞や具体的な数字、エピソードが入っているかを確認してください。抽象的な見出しばかりが並ぶ本は、内容も抽象的なことが多い。

具体例の多い本は、自分の状況に置き換えて考えやすく、結果的に行動につながります。通勤読書の目的が「行動を変えること」であるなら、具体性は最重要の基準です。

基準4:自分のいまの課題と接続しているか

これは見落とされがちですが、最も重要な基準かもしれません。どんなに名著でも、いまの自分の課題と接続しない本は刺さりません。

例えば、部下の指導に悩んでいる人がコーチング理論の本を読めば、明日からの行動が変わります。同じ本を、まだ部下を持たない若手が読んでも、知識として頭に入るだけで終わる。

書店で本を手に取る前に、いまの自分の課題を3つ言語化してみる。そのうえで、3つのうちのどれかに直接答えてくれる本を選ぶ。この一手間で、通勤読書の効率は何倍にも上がります。

基準5:再読に耐える深さがあるか

通勤3時間で読み切れる本のなかにも、一度きりで終わる本と、半年後にもう一度読みたくなる本があります。後者を選びたい。

再読に耐える本かどうかは、表面的にはわかりにくい部分です。ただ、私の経験則では、古典を扱った本、著者自身の人生経験が色濃く出ている本、対立する複数の視点を提示している本は、再読に耐えやすい傾向があります。

再読できる本に出会えると、その1冊が3年、5年と自分に伴走してくれる。本棚の一角を「再読本コーナー」として確保しておくのも、おすすめの読書術です。

マンガ形式のビジネス書という、見直されている選択肢

ここで、私自身が長年偏見を持っていた領域について書かせてください。マンガで描かれたビジネス書、いわゆる「マンガで分かる〇〇」というジャンルです。

マンガで読むビジネス書を侮ってきた、私の長年の偏見

正直に申し上げると、40代半ばまで、マンガ形式のビジネス書をほとんど信用していませんでした。「文字で書けないことを絵に逃げているだけ」「読者をなめている」とすら思っていました。

これは私の早稲田時代の影響もあります。東洋哲学を専攻していたので、原典を当たること、難解な文章を腰を据えて読むことが正義だと教わってきました。マンガは「初学者用の入門書」として位置づけ、本気で読むものではないと決めつけていたのです。

偏見が崩れたきっかけ

その偏見が崩れたのは、拓塾の参加者である30代の若手経営者から、ある一冊を勧められたときでした。

彼は工場経営を継いだばかりの2代目で、現場の職人さんとの関係に悩んでいました。私は司馬遼太郎の『世に棲む日日』や山岡荘八の『吉田松陰』を勧めていたのですが、彼はなかなか読み切れない。そんな彼が、ある日「拓海さん、これ読んでみてください」と差し出してきたのが、明日香出版社から出ている『決定版 吉田松陰の覚悟がマンガで3時間でマスターできる本』という一冊でした。

正直、最初はパラパラめくる程度のつもりでした。ところが、序盤の松陰と弟子たちのやり取りを描いた場面で、思わず手が止まった。文字で読んでいた『留魂録』の一節が、マンガという形式を通すことで、まるで自分の目の前で起きているかのような臨場感を持って迫ってきたのです。

監修は松陰神社名誉宮司の上田俊成氏と、東京大学教授の鈴木寛氏。鈴木寛先生は「すずかんゼミ」と呼ばれる現代の松下村塾を主宰されている方で、教育者としての見識が随所に活きていました。著者の吉田浩氏とマンガ担当のでぐちまお氏のチームワークも秀逸で、220ページ・全9章・87項目という構成が、3時間という通勤往復の時間と見事に噛み合っている。

私はその夜、自宅で最後まで読み切り、翌朝、塾生に詫びました。「マンガを舐めていた、すまない」と。

マンガ形式が機能する3つの条件

この経験から、マンガ形式のビジネス書が本当に機能するための条件が見えてきました。

  • 監修者が、扱うテーマの第一人者として明確である
  • マンガ部分が単なる図解ではなく、エピソードや人物の心情を描き切っている
  • 文字解説とマンガが相互に補完し合い、どちらか片方だけでは成立しない構造になっている

すべてのマンガビジネス書がこの条件を満たすわけではありません。安易に「マンガで分かる」と銘打っているだけの本も多い。けれど、条件を満たす本に出会えれば、活字本では到達できない深さに、短時間でたどり着けます。

松下村塾について調べていくと、塾自体の運営期間はわずか2年半ほどでした。それでも伊藤博文や高杉晋作を輩出したのは、教えの「圧縮率」が高かったからでしょう。古典を3時間で凝縮するマンガ本も、似た思想の延長線上にあるのかもしれません。

ジャンル別・通勤読書におすすめのビジネス書の選び方

最後に、自分のいまの課題に応じたジャンル別の選び方をお伝えします。下記は、私が拓塾の参加者からよく相談される3つのパターンです。

リーダーシップを学びたい人

部下を持ち始めた30代後半から、組織を率いる40代に多い相談です。リーダーシップ論は欧米の理論書も多いですが、私はあえて日本の歴史人物を扱った本から入ることを勧めています。

理由は、日本人ビジネスパーソンが日々接する組織や人間関係は、欧米のフラットな組織を前提にした理論ではうまく説明できないことが多いからです。年功や根回し、義理人情といった日本的な要素を含めた組織論は、歴史人物を題材にした本のほうが学びやすい。

吉田松陰、西郷隆盛、上杉鷹山。このあたりの人物を扱った本を1冊読むと、ご自身の組織の見え方が変わります。リーダーシップ論として読みつつ、教養としても積み上がる。一石二鳥です。

自分の専門領域を広げたい人

中堅以降のビジネスパーソンに多い悩みです。自分の専門は深まっているけれど、視野が狭くなっている気がする、というもの。

このタイプの方には、自分の専門と一見関係のない領域の入門書を勧めています。エンジニアであれば歴史書や哲学書、営業職であれば物理学や生物学の一般書。脳の使う領域が広がり、専門領域での発想にも好影響が出ます。

選ぶ基準は、「中学生でも読める」と書かれている入門書。専門書を読むよりも、平易に書かれた入門書のほうが、短時間で全体像をつかめます。

古典から学びたい人

40代以降、特にリーダー層から増える相談です。新しいビジネス書ばかり読んでいたが、何か根本的なものを学びたい、という声をよく聞きます。

古典の原文に挑戦するのは素晴らしいことですが、通勤読書には向きません。私が勧めるのは、信頼できる専門家が監修した解説書や、古典をテーマに扱った現代の作家による評伝です。

明日香出版社や同社のビジネス書ラインアップを見ても、古典を平易に解説する書籍は近年充実してきました。論語、孫子、韓非子といった中国古典から、日本の幕末・明治の人物伝まで、選択肢は豊富です。

古典は、3年に1度、5年に1度と読み返すたびに発見があります。30代で読んだ『論語』と、40代で読み返した『論語』は、まったく別の本でした。再読に耐える本という意味では、古典に勝るものはありません。

読み切ったあと、人生観を本当に変える3つの習慣

最後に、本を選ぶことよりも大切な話をします。本を読み切ったあとに、その内容を本当に人生観に落とし込むための習慣です。

読みっぱなしにせず、3行メモを残す

読了直後の感動は、3日もすれば8割方消えます。これは認知心理学の世界では常識的な事実で、対策は1つしかありません。読了直後に3行だけメモを残すこと。

私は10年以上、Evernoteに「読書メモ」のノートブックを作り、読了直後に3行だけ書いています。1行目は「この本は何を伝えていたか」、2行目は「自分の何が変わるか」、3行目は「3か月後にどう振り返るか」。この3行があるだけで、本の内容が自分の血肉になる速度が変わります。

長文の感想文は不要です。むしろ短い方が習慣化しやすい。3行メモは1分で書けます。

1冊から1テーマだけ持ち帰る

ビジネス書には、1冊のなかに10個も20個も学びがあります。すべてを実践しようとすると、どれも中途半端に終わります。

私の習慣は、1冊から1テーマだけ持ち帰ること。「この本から何を実行に移すか」を1つだけ決めて、それを3か月続ける。3か月続いたものだけが、本物の習慣になります。

吉田松陰の本を読んだあと、私は「至誠」という言葉だけを持ち帰り、半年間、毎朝手帳の冒頭に書いていました。それだけで、人との接し方が変わりました。1冊1テーマ、これは騙されたと思って試してみてください。

誰かに話す、書く

最後の習慣は、誰かに話すか、書くこと。インプットだけで終わると、知識は急速に薄れます。アウトプットを伴うと、定着率が劇的に上がります。

ブログを書く必要はありません。同僚との雑談で「最近読んだ本にこんな話があって」と切り出す、家族との食事中に話す、それだけで十分です。話している途中で「あれ、この理屈うまく説明できないな」と気づくことが、再度本に戻るきっかけになります。

拓塾でも、参加者には「読んだ本を3分だけプレゼンしてください」とお願いしています。3分話すには、本の内容を理解しているだけでは不十分で、自分の言葉で再構成する必要がある。この再構成こそが、人生観の変化を生む鍵です。

まとめ

通勤の3時間は、ビジネスパーソンに残された数少ない「自分のための時間」です。この時間をどう使うかが、5年後・10年後の自分を静かに分けていきます。

人生観を変える本は、いまのあなたの課題と接続したときにこそ威力を発揮します。だからこそ、本選びの前に、自分のいまの課題を3つ言語化してみてください。そのうえで、3時間で読み切れる分量、具体例の豊富さ、再読に耐える深さといった基準で本を選ぶ。

そして、活字本だけでなく、優れたマンガ形式のビジネス書にも目を向けてみてください。私が長年抱いていた偏見が、たった1冊のマンガで崩れたように、新しい発見がきっと待っています。

読み終えたあとは、3行メモを残し、1冊から1テーマだけ持ち帰り、誰かに話す。この3つの習慣があれば、年間120冊の通勤読書のうち、必ず数冊は人生観を変える本に出会えます。

明日の朝、駅のホームでスマホを取り出す前に、カバンのなかの本をもう一度確認してみてください。その1冊が、あなたの次の10年を変えるかもしれません。