「かっこいい」。
その一言で片付けてしまうには、あまりにもったいない物語が、今のストリートには溢れています。
「このロゴ、最近よく見るな」「値段が高いのには、何か特別な理由があるんだろうか」。
そんな風に感じたことはありませんか?
その気持ち、僕も痛いほどよく分かります。
こんにちは、ファッションライターの村上 蓮です。
アパレル業界に15年身を置き、企画やPRを経験した後、ニューヨークやパリのストリートで本物の熱気に触れてきました。
今日はそんな僕の視点から、単なる流行り廃りではない、本当に価値あるハイエンドストリートウェアの選び方について、あなたと一緒に考えていきたいと思います。
この記事を読み終える頃には、あなたは服を「価格」や「見た目」だけで選ぶのではなく、その背景にあるカルチャーや思想、つまり「物語」で選べるようになっているはずです。
さあ、一緒に「かっこいい」のその先へ、旅を始めましょう。
目次
ハイエンドストリートの現在地
ラグジュアリー×ストリートが生んだ新しい「格」
かつて、ラグジュアリーとストリートは、決して交わることのない平行線の上にあるとさえ思われていました。
しかし、時代は変わりました。
ラグジュアリーブランドがストリートの持つリアルな影響力とカルチャーの熱量に気づき、ストリートブランドがラグジュアリーの持つ品質や歴史に敬意を払うようになったのです。
2017年の「Supreme × Louis Vuitton」のコラボレーションは、その象徴的な出来事でした。
かつては訴訟問題にまで発展した両者が手を取り合ったこの一件は、ストリートカルチャーがファッションの歴史において、正真正銘の「格」を得た瞬間だったと言えるでしょう。
ブランドを超えて広がる「価値観の共有」
今のハイエンドストリートは、もはや特定のブランドのロゴを身につけることだけを意味しません。
それは、音楽やアート、社会的なメッセージといった、ある種の「価値観」を共有するためのコミュニティに参加するような感覚に近いものです。
どのブランドを選ぶかということは、自分がどんなカルチャーに共鳴し、どんな考え方を支持するのかを表明する行為になっているのです。
ムーブメントではなく「文脈」をまとう時代へ
一過性のブーム、つまり「ムーブメント」を追いかける時代は終わりを告げました。
これからは、その服がどのような歴史や思想から生まれてきたのかという「文脈」を理解し、それを自分自身のスタイルとして着こなす時代です。
僕たちはもう、ただの服を着ているのではありません。
その服が持つ、豊かな物語や背景をまとっているのです。
見た目以上の価値をまとう:選び方の哲学
では、どうすればその「文脈」を読み解き、自分にとって価値ある一着を見つけられるのでしょうか。
僕が大切にしている、いくつかの哲学をお話しします。
物語があるか?—ブランドのルーツと思想を読む
一枚のTシャツが、なぜこれほどまでに人を惹きつけるのか。
それは、ブランドが持つルーツや思想、つまり「物語」があるからです。
例えば、ヴィンテージのミリタリーアイテムを解体し、芸術的なピースへと再構築するREADYMADE。
彼らの作品には、反戦という力強いメッセージが込められています。
その背景を知ることで、服は単なる布から、思想をまとうためのキャンバスへと変わるのです。
デザインに理由があるか?—シルエット・カラー・ディテールの意味
なぜこのオーバーシルエットなのか。
なぜこの色が使われているのか。
優れたデザインには、必ず理由が存在します。
A-COLD-WALL*が建築的な構造や工業的な素材を多用するのは、デザイナーのサミュエル・ロスがイギリスの社会階級や労働者の現実を表現しようとしているから。
ディテールに込められた意味を読み解くことは、まるでデザイナーと静かに対話するような、知的な楽しみでもあるんです。
誰が着てきたか?—着用者とカルチャーの関係性
その服が、どんなアーティストやインフルエンサーに愛されてきたかを知ることも重要です。
それは単なる人気者の模倣ではありません。
彼らがその服を選ぶ背景には、必ずカルチャーとの深いつながりがあります。
ヒップホップアーティストがなぜそのスニーカーを選ぶのか、スケーターがなぜそのフーディを着るのか。
その関係性を知ることで、服の持つカルチャー的な価値が見えてきます。
流行ではなく「自分の文脈」に合うか?
そして最も大切なのが、この問いです。
その服は、あなたのライフスタイルや価値観、つまり「あなたの文脈」に合っているか?
どんなに評価の高いアイテムでも、あなた自身の物語と響き合わなければ、それはただの「借り物」になってしまいます。
自分のワードローブに加え、自分だけのスタイルを築き上げていく。
それこそが、ハイエンドストリートの最も刺激的な部分なのです。
ブランドを選ぶ前に知っておきたい10の視点
具体的な選び方のヒントとして、僕がいつも意識している10の視点をリストアップしました。
ぜひ、お店やオンラインでアイテムを見るときに、思い出してみてください。
- そのブランドは何を反映しているか?
社会の動き、音楽、アート…時代のどんな空気を吸い込んでいるかを感じてみましょう。 - コラボの“意義”と“仕掛け人”に注目する
ただの話題作りか、それとも歴史的な必然か。
誰と誰が組んだのか、その裏側を探るのが面白いんです。 - SNSで見かける前に、ストリートの現場を知る
本当にクールなものは、いつだって現場のストリートから生まれます。
SNSの情報だけでなく、街の空気を感じることが大切です。 - ロゴの強さより「空気感」を感じ取れるか
ロゴがなくても、そのブランドだと分かるような独自の「空気感」。
それこそが本物のオリジナリティの証です。 - 素材と縫製で語られる“無言のラグジュアリー”
触れた瞬間に分かる上質な素材、細部までこだわり抜かれた縫製。
言葉にしなくても伝わる品質こそ、真のラグジュアリーです。 - 海外トレンドの“翻訳精度”を見る(日本市場の視点)
海外のトレンドをそのまま持ち込むのではなく、日本のマーケットや体型に合わせてどう再解釈しているか。
その精度に、ブランドの力量が現れます。
例えば、ベトナムから登場したHBSのハイエンドなパンツコレクションなどは、アジアならではの熱気と独創的なデザインが融合しており、これからのトレンドを占う上で注目すべき存在です。 - ジェンダーの境界を超える発想があるか
メンズ、ウィメンズという垣根を軽やかに超えていく自由な発想は、現代のストリートウェアに不可欠な要素です。 - 持続性・倫理性の観点が織り込まれているか
環境や労働者に配慮したサステナブルな視点。
これからの時代、ファッションを楽しむ上で無視できない大切な価値観です。 - セカンドマーケットでの価値の変動を見る
リユース市場でどのように評価されているか。
それは、そのアイテムが持つ普遍的な価値を測る一つの指標になります。 - 自分のワードローブに「物語」が増えるか
最終的に、その一着があなたのクローゼットに新しい物語を加えてくれるかどうか。
これが最も重要な問いかもしれません。
名作を知る:時代を変えた5つのアイテム
言葉だけでは伝わりにくいかもしれません。
ここで、ハイエンドストリートの歴史を塗り替えた、象徴的な5つのアイテムを紹介しましょう。
OFF-WHITEの「DIAGフーディ」:ヴァージルが提示した矛盾の美学
ストリートの象徴であるフーディに、建築現場で使われるようなダイアゴナルラインを大胆にプリントした故ヴァージル・アブロー。
彼は、ラグジュアリーとストリート、アートと日常といった、矛盾する要素の間にこそ美しさが宿ると教えてくれました。
これは単なるフーディではありません。
ストリートウェアがアートピースになり得ることを証明した、一つの事件だったのです。
Supreme×Louis Vuitton:ストリートとラグジュアリーの歴史的融合
先ほども触れましたが、このコラボレーションが与えた衝撃は計り知れません。
スケートボードカルチャーから生まれた反骨のブランドと、フランスの伝統を象徴するメゾンが公式に手を組んだ。
この歴史的な融合によって、ストリートファッションはカルチャーの最前線へと躍り出たのです。
A-COLD-WALL*のテクニカルジャケット:社会階級をデザインで語る試み
工業用の素材や、非対称なカッティングが特徴的なこのジャケットは、イギリスの階級社会や都市の風景からインスピレーションを得ています。
デザイナーは服を通じて、社会構造に対する批評的なメッセージを投げかけました。
ファッションが社会を語るための言語になり得ることを示した、知的な一着です。
sacaiのハイブリッド構築:構造で語る“着こなしの哲学”
ニットとシャツ、ジャケットとコートなど、異なる要素を解体し、再構築するsacaiの「ハイブリッド」デザイン。
それは「日常の上に成り立つデザイン」という哲学の現れです。
この服は、着る人に「どう着るか?」という創造的な問いを投げかけ、固定観念からの解放を促してくれます。
READYMADEのリメイクミリタリー:反骨と再解釈の表現
ヴィンテージのミリタリーテント生地などを解体し、全く新しいアイテムへと生まれ変わらせる。
そこには、使い捨て文化へのアンチテーゼと、平和への祈りが込められています。
歴史をリスペクトしつつ、現代的な視点で再解釈する。
これぞまさに、ストリートの精神そのものです。
あなたの“スタイル”を作るために
選ぶとは「自分の思想を選ぶ」こと
ここまで様々な視点をお伝えしてきましたが、一番大切なのは、あなた自身の「思想」です。
ハイエンドストリートウェアを選ぶことは、自分がどんな人間で、何を大切にしているかを表現することに他なりません。
それは、自分という存在を編集していく、クリエイティブな作業なのです。
ハイエンド=高価ではなく、“意味”のある選択へ
高価な服を着ることがゴールではありません。
その服が持つ意味と、自分の生き方がリンクしたとき、初めて本物のスタイルが生まれます。
たとえTシャツ一枚でも、そこにあなただけの物語があれば、それはどんな高級品よりも価値のある一着になるはずです。
「それ、似合ってる?」より「それ、あなたらしい?」という問いを
これからは、誰かに「それ、似合ってるね」と褒められることよりも、「それ、すごくあなたらしいね」と言われることを目指してみませんか?
「似合う」は他人の評価軸ですが、「らしい」は自分自身の価値観の現れです。
その小さな違いが、あなたのファッションを、そして人生を、もっと豊かにしてくれると僕は信じています。
まとめ
最後に、今日のポイントをもう一度振り返ってみましょう。
- ハイエンドストリートは、価格ではなく「感性」と「思想」で選ぶもの。
- ブランドの「物語」やデザインの「理由」を知ることで、服はもっと面白くなる。
- 流行を追うのではなく、自分の「文脈」に合う一着を見つけることが大切。
- 選ぶという行為は、自分自身の思想を表現することに繋がる。
ファッションは、自分という人間をアップデートし続けるための、最高にクリエイティブなツールです。
これからの時代、僕たちに必要なのは、流行をただ追いかける「見る目」ではありません。
ブランドが発する小さな声や、ストリートの熱気を敏感に感じ取る「耳」なのです。
あなたのワードローブに、新たな物語が加わることを心から願っています。